デジタル・ナルシス―情報科学パイオニアたちの欲望 (岩波現代文庫)
西垣 通
岩波書店
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この本は、バベッジ、ノイマン、チューリング、シャノン、ウィーナー、ベイトソンといった、情報科学に関するパイオニアたちについて書かれた本です。

情報科学に関する話は本当は非常に難解な内容だと思うのですが、本書はそれぞれの学者たちの人生を描きながら、情報科学の思想の流れを追っていくので、かなりわかりやすくなっていると思います。

理論を抽象的に解説していくのではなく、それぞれの学者の人間としての部分に注目しながら書かれていくので、読み物として思わず熱中してしまう内容でした。

元々この本は、所属している研究室の夏合宿で、ベイトソンに関する発表をしたのでそのときに読みました。そのときには図書館で借りて読んだのですが、はまってしまい、結局買いました(笑)

ベイトソンの本を読んでもわからないことが、この本の記述を読むことで、すっと腑に落ちてきました。

ひとつポイントになったところを引用してみようと思います。

p140 引用 ——————————————————–

ベイトソンのエピステモロジーとはいったい何か?

説明を始めると長くなるが、肝心な点は、それが一種の「新しい科学」だということだ。

ベイトソンはみずからの科学を、従来の「プレロマの科学」から峻別して「クレアトゥラの科学」と称する。

<プレロマ(生なきもの)>と<クレアトゥラ(生あるもの)>とはユングの用語で、前者は力や衝撃が支配する物理的領域、後者は対比や差異が支配する情報的・関係的領域にそれぞれ対応する。

たとえば一人の人物を認識するとしよう。その「物理的リアリティ」を実験室のなかで生化学的に分析するのはプレロマの科学である。一方、その人物の「人となり」を知るためには、当人と他の人々との関係やコミュニケーションを社会的・文化的コンテクストのなかで分析しなければならない。
これはクレアトゥラの科学ということになる。

クレアトゥラの科学においては、質量や速度といった<量>ではなく、<パターン><メッセージ><コンテクスト>などが基本コンセプトになる。

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これは非常に腑に落ちる説明でした。

ベイトソンは、人類学から精神病理学、動物のコミュニケーションなどなど非常にいろいろなジャンルで活躍した人です。一番聞いたことのある理論は「ダブルバインド理論」でしょうか。

このように一見かなり幅広く研究しているので、まとめるのが非常に難しかったのですが、この文章を読むことでかなり腑に落ちました。

<パターン><メッセージ><コンテクスト>というところがまさにですね。

この本は情報科学をめぐるパイオニアたちが何を考え、どのような変遷をたどったのかについて知りたい方におすすめの一冊だと思います。

あらためて「基礎情報学」を読み直したいと思いました。また読んだら書評を書こうと思います。

夏合宿の記事はこちらです。ベイトソンについて発表しました。

教育・学習に関する古典を読みまくる! -研究室の夏合宿2011が終わった
https://www.tate-lab.net/mt/2011/10/summer2011.html

ダブル・バインドについてはこの説明などがわかりやすいように思いました。

心理学からみた教育の隠れた次元(隠れた次元とは?)
http://www.manabi.pref.aichi.jp/general/02010496/0/kouza6/section6.htm

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