先日こちらの本を読みました。最近読んだ本のなかでも、非常に好きで面白い本のひとつです。

技芸(アート)としてのカウンセリング入門
杉原 保史
創元社
売り上げランキング: 182,565

気に入ったポイントはかなりたくさんあったのですが、特に面白いなと思ったのは「優しいまなざしを向けて気づくこと、穏やかに気づくことの価値」という話です。以下本文を引用します。

何かに気づくことそれ自体に治療的な意味があるわけではないのです。気づいた結果、クライエントが「自分はなんて嫌な人間なんだろう」と厳しく自己非難するのであれば、そんな気づきには何の意味もありません。むしろそれは有害な気づきです。クライエントはその気づきの結果、自尊心を下げるでしょう。それはカウンセラーによって不必要にもたらされた有害効果だと言えます。

気づくことに価値があるのではなく、優しいまなざしを向けて気づくこと、穏やかに気づくことに価値があるのです。冷たく厳しい非難がましいまなざしで気づいてもだめなんです。(p.54)

これはカウンセリングの文脈の話ですが、色々な示唆があるように思いました。

授業の場面でカウンセリングを直接おこなうことはありませんが、「何かの経験をして、フィードバックをして、振り返る」という形式では、ある種の気づきを促す活動がおこなわれます。

例えば、リーダーシップ教育のなかでは「自分のリーダーシップのふるまい」について、他者からフィードバックを受けたり、コーチングを受けたりするという場面があります。よりよいリーダーシップ行動ができるようになるためには、「自分の認識」と「他者の認識」のギャップについて理解し、それをもとに行動を改善させるということが大切になります。

しかし、その過程では、ある種の「痛み」も必要になります。「自分がよかれと思ってやった行動が、相手にとってはむしろマイナスだと捉えられていた」といったことが直接フィードバックされることなどもよくあります。これらは学習にとって必要なものだと思いつつも、はたして「優しく、穏やかに気づく」ということかと言われたら、そうではないよなと思います。

もちろん、このリーダーシップ教育の文脈と、もともとのカウンセリングの文脈は異なるので、それらを一緒に論じて良いのかという問題はあると思います。

ただ、「自分と相手の認識の差分を検知して、その差分を埋めるように行動すればよい」というのはロジカルにはわかるものの、たぶんそこには何かのひっかかりがあるからできないわけで、気づき方も大切だよなというふうに思うのです。

今日は「優しく、穏やかに気づくこと」について書きました。

人はなかなか自分の気持ちや行動について「よい・悪い」といった即時的な評価をもとに判断してしまいがちなので、なかなか「優しく、穏やかに気づく」というのは難しいなと思います。

ただ、「何かを受け入れて次にいく」というためには、きっとこういったことが必要になるのだろうと思います。

本書は内容もさることながら、カウンセリングに対する考え方や、本書を書く上でのスタイルのようなものが非常に面白く、そのあり方そのものについてもとても共感をしながら読むことができました。実践と研究との関係などについて悩んだり、よく考えている方にもおすすめできる一冊だと思います。

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■私が執筆したリーダーシップ教育に関する書籍はこちらです。

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