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(写真は数年前に実施した勉強会からの一コマです)
 これまでワークショップ・デザインにおいて個人的に大事にしているポイントについて書いてきました。しかし、これまでの記事では「そうすればいいのはわかるけど、どうやったらそれができるようになるの?」ということについてはあまり答えられていなかったように思います。
 今回はどうやってワークショップ・デザインについて学んでいくとよいかについて書いてみたいと思います。今回の記事のポイントになるのは「マネ」です。

 この記事を書こうと思ったのは僕自身の経験からなのですが、たまたま他の人も同じくマネの重要性を指摘していて驚きました。例えば、先日認知科学会で、ワークショップを実施している、学部生の細野あゆみさん(同志社女子大学)、松浦李恵さん(東京都市大学) とお話しをしたのですが、二人とも「マネが大事」という話をしていました。面白い一致だなと思います。
 僕の中での「マネ」というのは、要は自分が面白いと思ったワークショップで取り入られている方法を、試しに自分でやってみるということです。それは別に本番のワークショップでいきなりやる必要はないんですよね。友達同士の小さな集まりでもいいので、試しにやってみるのです。そうすると色々なことが見えてきます。
 例えば、僕は修士の頃はじめて上田信行先生(同志社女子大学)のワークショップに参加したのですが「これはすごいな」と圧倒されたんですね。少しでも自分もなにかできるようになりたいと思ったときにやったのは、上田先生のワークショップに取り入られている要素をマネしてみたのです。
 具体的には、学生同士の勉強会のときに、
・ドキュメンテーション係:勉強会の写真を撮ったり、キーワードをメモする人をつくる
・お菓子係:勉強会を楽しいものにするために、おかしをもってくる
・DJ係:その会のイメージにあった音楽を流す

という係を決めて、みんなでまわして体験したりしていました。マネといっても、本物そのものをやることはできないのですが、試しに似たような経験をしてみることで見えてくることがたくさんあります。
・食べ物があるだけで場が異なる
・写真を撮るときにこういうカットがあったほうがいいんだな
・こういうキーワードをメモしておくと振り返りが盛り上がるんだな

など、たくさんの気づきがあります。それをもとに「自分なりのカスタマイズ」をどんどんしていくわけですね。

 ここでマネを考えるときには、佐伯胖先生の言うところの「結果マネ」と「原因マネ」の話を参考にするといいのかもしれません。ちょっと手元に文献があるわけではないので、雑な説明になりますが、概要はこんなかんじだと思います。
 「結果マネ」はそれそのものを完璧にコピーしようとするものです。結果がマネされていることが重要なので、創意工夫の余地がありません。一方で「原因マネ」は、結果としてのカタチがマネされている必要はなく「なぜ?」という要因の部分をマネします。よって、最終的なカタチは自分なりのものになります。
 これを踏まえて、あえてワークショップ・デザインにおける「マネ」による学びがうまくいかない例を考えてみると、おそらく2つくらいのパターンがあるんじゃないでしょうか。
 1つ目は、「単にパクっておわり」となるパターンです。これまでやられていた方法をなんとなく取り入れてみたらうまくいった。だったらこれでいいやということで、何度も繰り返して使うというパターンです。これは「結果マネ」しかしていないので、ここから新しい方法を考えることができませんし、いずれ失敗するときがくるのではないかと思います。
 2つ目は、「新しいものを追い求めるばかりにマネしない」というパターンです。いきなり新しい方法を考えつくということもあると思うのですが、やはりマネをしながら自分の型を見つけていくという方法は学ぶためにはとても重要です。それなのに「新しいものをやらなくちゃ!」とあまりに切羽詰まったり、「マネじゃなくて、オリジナルなものをつくりなさい!」と周りがいいすぎると、せっかくの成長の機会が失われてしまうのではないかと思います。
 さきほども書きましたが「マネ」というのは本番でやらなくてもいいと思うんですね。ちょっとした研究会でもいいですし、仲間内で集まったときでもいいんですよ。そのときに「エッセンスを少しだけいれて試してみる」というだけでいいのです。それだけでもだいぶ感覚がつかめてきます。
 こういう試行錯誤を大きな舞台がくる前に、日常から少しずつ試しておくのです。そうすると、なんとなく「自分なりにしっくりくる型」というのが見えてくると思います。

 ということで今回はワークショップ・デザインを学ぶコツとしての「マネ」について述べました。
マネによる学びのコツをまとめるならば、
・まずは「マネ」したくなるような方法と出会う機会をたくさんつくる(ワークショップに参加する、本を読むなど)
・実際にマネしてみる
・マネするときには完全コピーじゃなくても、要素をマネするだけでもいい
・いきなり本番で試すのではなく、小さく試してみる(失敗しても大丈夫な場所で)
・マネしてみて気づいたことを振りかえる
・マネした方法を自分なりにアレンジする(ここでこういう活動をいれたほうが自分的にやりやすい)
・アレンジした方法をまた試す

というかんじでしょうか。こういうサイクルがまわっていくと、そもそもワークショップをデザインしたり、だれかのワークショップに参加することも楽しくなってくるかもしれません。
みなさんのコツなどもあったらぜひ教えて下さいね。
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