京都大学の溝上慎一先生の本を読みました。「現代大学生論 ユニバーシティー・ブルーの風に揺れる」です。現代の大学生を論じている本ですね。

「大学の先生による、大学生論」というと、なんとなく、「最近の大学生は・・・」的なことかと思う人もいるかもしれません。しかし、本書はまったくそういった書かれ方はしません。多くのデータを使いながら、現代の大学生のありのままを描いているように思え、個人的にとても好感がもてました。

最近まで大学生だった自分にとっても、私たちはどのように見られているのかは非常に興味がありました。本自体はコンパクトで読みやすいですが、かなり中身の詰まっている本という印象です。

現代大学生論 ~ユニバーシティ・ブルーの風に揺れる (NHKブックス)
溝上 慎一
NHK出版
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本の概要については、Amazonの紹介文がわかりやすいかと思います。

授業にはまじめに出席、サークル活動、アルバイトも忙しい。ところが、表面の屈託なさとは裏腹に、大学生という人生の時期を充足させなければ、という何かしらの強迫観念ともいうべき憂うつ感情を抱いている今どきの大学生。この彼らの不満足感、充足しきれない感情の表現を、「ユニバーシティ・ブルー」現象という。気鋭の青年心理学者が、「アウトサイド・イン」「インサイド・アウト」という生き方ダイナミックスの視点から、現代大学生の生きる姿を鮮やかに解き明かしていく。

この本を読む上でポイントとなるのは以下の2つの視点です。

・「アウトサイド・イン」による生き方(外から内へ)

1960年代の青年に見られた生き方。(1970年代から80年代も同様に進行したと筆者は見ている)
自分のやりたいことや将来の目標を実現するために大学を選んだのではない。「より上級の学校へ」「二流よりは一流へ」という学歴トラックの基準で大学を選んだ。大学は人生を決めるための通過点であり、青年は大人社会に出るまでのレールの上を走っていた。このような時代の生き方のこと。

・「インサイド・アウト」による生き方(内から外へ)

こちらは「やりたいこと」や「将来の目標のイメージ」から出発して、実現するコミュニティ(場所)を探すイメージの生き方。先ほどとは異なり、自分のやりたいこと等が重視される。こちらが1990年代に見られた生き方である。

本書では、1960年代から1990年代にかけての、大学生の生き方の変化を、社会の変化など、様々なデータを用いて論じています。現代の大学生は「インサイド・アウト」的な生き方をしているといえるでしょう。(もちろん、全部そうであるとはいえないと本書でも書かれています)

「インサイド・アウトによる生き方」は自分のやりたいことから始まる生き方といえば、聞こえはよいですが、難しさもたくさんあります。「自分探しの罠」ともいえるでしょうか。その難しさと、原因についても論じられています。

では、その上で、大学生がどうしていくことが大事なのか?これは2点指摘していました。

1.点から面への自己形成-まずは行動する、そのことの意味

「やりたいこと」をまず見つけて、それがわかったら行動するという生き方ではなく、「やりたいこと」のあたりをつけて、あとは行動しながらその形を修正していく生き方です。

自分探しや内面に深く深く入ってきてしまうと、どうしても行動につながらなくなります。そうではなく、行動していきながら、「やりたいこと」を修正していく生き方が大事ではないかという話です。

この話は、「リフレクティブ・マネジャー」で金井先生が「アクションにつながるリフレクション(内省)が大事」といっていることとも関連するなと思いました。

2.他者に向かって言語表現すること-物語化

もう一点は、やりたいことや将来にかかわる自己世界を他者に向かって言語表現することが紹介されていました。

行動をすることは大事ですが、それにしても、やはり将来についての「見通し」は大事です。やりたいことや将来の目標を自己の世界で意味のある形で位置づけ「物語化」することが大事であるという主張です。

(もちろん、物語化できても、行動につながらない場合があるので、1点目に行動することの大切さを述べたとのことでした)

自分の今やりたいことを「点」として語るのではなく、過去からの「つながり」で考える。「時間的展望」として語ることの大切さを述べていました。

今回のまとめは、私が個人的に興味のあるところを抜粋しているかんじもありますので、興味ある方はぜひ本書をお読み下さい。

実は私は、ワークショップ部というコミュニティの活動で大学生を対象にしたワークショップをしているのですが、このワークショップの内容はけっこう溝上先生のお話と重なる部分があるなと思いました。ワークショップの様子は以下をご覧下さい。

15の夜ワークショップ 1回目
http://utworkshop.jimdo.com/2009/05/03/第1回-15の夜-ワークショップ-4-15/

15の夜ワークショップ 2回目
http://utworkshop.jimdo.com/2009/06/11/第2回-15の夜-ワークショップ-6-3/

15の夜ワークショップ 3回目
http://utworkshop.jimdo.com/2009/09/29/第3回-15の夜-ワークショップ-8-26/

「大学生がわからない!」と思っている大人の方が読んでも面白いと思いますし、「やりたいことがみつからない」と悩む大学生が読んでも面白いのかなと思います。
おすすめの一冊です。

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