人生の「転機」はジタバタして乗り越える?:行動しながら意味を見いだすこと

「転機」というのは突然やってくるものです。いままでの日常の延長を過ごしていたと思ったら、突然大きな変更をせまられるということはだれしも経験しているかもしれません。その転機は人をどのように成長させるのでしょうか。

そんなことを思ったのは、先日、久しぶりに京都大学の溝上慎一先生が書かれている「大学生の自己と生き方-大学生固有の意味世界に迫る大学生心理学.(ナカニシヤ出版)」を読み直したからです。

その本の中で「大学生の自己形成における転機の役割」という章があるのですが、その章が興味深いのは溝上先生自身の「転機」のエピソードが書かれている点です。以下少し長いですが引用させていただきます。

 筆者自身にも転機があった。心理学の研究者を目指して大学院で学んでいたが、修士論文の出来が悪く、博士課程の進学ができなかったのである。進学ができなかったショックももちろん大きかったが、それよりも、研究をやっていく意味が見いだせなかったのが大きかった。心理学の研究をすることが、自分にとって、社会にとって何か意味があるのかという疑問への答えが見つからなかったのである。研究をあきらめ教員採用試験を受けたが、これも不合格であった。自分には何の価値もないかと思ったこともあった。しかし、たまたま定時制高校の講師の職があり、何とか博士課程へも進学し、大学院と平行してそこで教えはじめたことが筆者の転機になった。(p.141)

ぼくがこれを読んだときには、たまたまぼく自身も非常に似たような状況でした。溝上先生と同じというとおこがましいかんじですが、ぼく自身も研究がうまくいかずに博士課程への進学ができなかったのです。自分が同じような境遇のときに、たまたまこの書籍のこの文章に出会うというのは面白いものですね。

ぼくのケースにおいても、もちろん研究そのもののクオリティ(知識やスキルなど含む)が足りていないということもあったのですが、それ以上に一番苦しかったのは「自分が研究をすることで社会に何を貢献できるのか?」という意味を見失っていたことでした。

研究は意味があるはずだと思ってこの道に進んだものの、いろんなことをやればやるほど「本当にそうなのか」ということについて、自分自身で納得できる意味を作り出せずにいました。ここでの「意味」というのは、「自分にとっての意味」なので、一般的に「研究が実践に役立つか?」という「意味」とは異なります。「自分にとっての意味」というのは、苦しくても「自分なりに作り出す」ということがないと前に進めないのだと思います。

ぼくがその意味を見いだすきっかけになったのは、溝上先生同様「実践にかかわること」でした。ぼくが「ワークショップ」という手法に興味を持ち、自ら実践をしはじめたのはそうした背景があります。もちろん、そのときには「実践をすることで意味がわかる」と思ってやっていたわけではありませんが、なんとなくそうするしかなかったんでしょうね。

「実践をする」というのは、別の見方をすると「研究の時間を減らす」ということでもあります。研究がうまくいっていないのに「研究を減らして実践をする時間を増やす」というのは、いまあらためて考えてみると笑ってしまうようなものです笑 ただ、そのときのぼくにとっては、もうそれをやるしかないという腹をくくったのだろうなと思います。これでだめなら研究者はあきらめようとも思っていました。

そんなこんなで自分自身が実践をやりはじめていくうちに、少しずつですが「研究と実践」のつながりを実感できるようになり、さらにさまざまな人たちとの出会いにもつながり、なんとかいまの職までたどりつけたというかんじです。あのときを支えてもらった方々には本当に頭があがりません。

最近では溝上先生と共同研究もさせていただいたりするのですが、当時はそんなことになるとは想像できませんでした。いまのように実践と研究をやっていくスタイルは、自分がこの仕事をやり続ける上で、自分にとっても必要なものだったのかなと今は思います。

今日はちょっと自分語りみたいなブログになりました。こうして考えてみると「転機」というのは突然訪れるようでいて、自分のなかでもやもやとしていたものが形になって表れる瞬間が「転機」なのであって、実際は常に起こっていることでもあるということなのですね。

そして「転機が人を変える」というのも、これまた一瞬の出来事で「しゃきーん」というかんじで人が変わることをイメージしますが、そんなことはなく、「もうどうしようもない必要に迫られて、自信はないけどなんとか動いているうちに、少し光が見える」といった泥臭いものであるのかもしれません。

転機を過ごす上で重要なポイントは「自分なりの意味」ということだと思うのですが、この意味というのも、ひとりでじーっと部屋で考えていても思いつくものではないのですよね。良い意味でジタバタする(とりあえずアクション、人に聞く)をすることが、よい素材がじわじわとたまっていき、ようやく花開くときがくるのかもしれません。

ジタバタするのはスマートではないような気がしますが、たぶんみんな実際はジタバタしているんじゃないかと思います。いろいろ悩みはあるけど「動きながら考える」ということがやはり大事なのかなと、自分の転機をもとに考えてみたのでした。

【関連する書籍】

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