何か話を聞くだけではなく、「体験」をすることは学びにとって非常に重要です。しかし、同じ体験をしていても、そこから10学べる人もいれば、1しか学べない人もいます。その違いを生む要因のひとつは「具体的な体験」から、そのほかの状況にも応用可能な「教訓を抽出できるか(抽象化)」にかかっているでしょう。

具体的な例でいえば「あるプロジェクトがうまくいかなかった」という場合に「何がどううまくいかなかったのか」「なにが少なくともうまくいっていたのか」をうまく取り出すことで「次のプロジェクトのときはこうやろう」ということができるかにつきます。

一方で体験から学べない人は「今回はグループメンバーが微妙だった、以上」のようなかんじで、自分ではコントロール不可能な要因をとりあえずの理由にしておえてしまうパターンです。これでは「うまくいかなかった」という体験だけ残り、次もきっと全て運任せになってしまうでしょう。

もちろん、どんなに自分が成長しても、グループでの仕事は全てコントロールすることはできず100%を目指すことはできませんが、自分の行動レベルで何かトライできるようなことを抽出できないと、確率もあがってきません。

自分ではどうしようもない要因(例えば、メンバーを選ぶ)だけを見て人のせいにしても成長につながりません。一方で、自分のせいじゃない要因を「自分のせい」と思って卑下したりするのももったいないです。

全てはコントロールはできないし、自分のせいじゃないこともあるけど、少なくともここはがんばろうと思えるポイントを抽出できるかがポイントになります。

ここまで「学べる人とそうではない人の違い」について述べてきました。ここまではだいぶすっきりと整理ができるように思います。一方で、「じゃあそうではない人ができるようになるためにはどうしたらいいの?」という問いはけっこう難しいなと思います。

「体験からの抽象化」という行為を、我々は「振り返り」と呼んでいると思うのですが、「よい振り返りができない人ができるようになるためにはどうしたらいいのか?」というのは、案外とわかっていないことが多いと思うのですよね。

これに対して最近思っていることは2つです。

1つめは「体験の前の準備が重要」ということです。「振り返り」は「体験の後」にやるものですが、そもそも体験の前での仕掛けがうまくいっていないとだめなのではないかということを最近よく考えています。つまりは「仮説(こうやるといいかも)」とか「目標・目的(こうなりたい)」ということをどれだけちゃんと持っているかです。これができていなければ、振り返りの視点がないため、結局うまくいかないのではないかと思います。

2つめは「振り返りにおいて文章を書くこと」です。「振り返り」の習慣がついている人はいいかもしれませんが、そうでない人が練習するためにはやはり「書く」ということが重要ではないかと思っています。「書く」という行為は、文脈をともにしないひとにもわかるようにしなくてはなりません。つまり、書く場合には、そのときの状況を自ら切り取り、記述するという行為が内包されているわけです。振り返りを口頭でやらせたり、ちょっとしたやりとりで終わらせずに、「しっかりと書く」という行為に落としていくことはけっこう重要なのかなと思っています。

今日は「同じ体験」から「よく学べる人」と「そうでない人」の違いと、そのトレーニング方法について書きました。これは結局のところ「よい振り返りをどうデザインするか?」という点と共通する議論だと思います。このあたりについては、実践に加え、今年は研究ベースでさらにもう少し深めていけるといいなと思っています。

特に「書くこと」については、院生の頃にさんざん研究したテーマでもあるのでそことうまく接続していくと個人的には面白いのかなと思っています。

■関連する記事

「振り返り」をどのようにデザインするか?:「重たい反省会」は学びにつながるか
https://www.tate-lab.net/mt/2014/01/post-300.html

リフレクションとは「私が悪かったです、頑張ります、大丈夫です」と「言わせること」なのか?
http://www.nakahara-lab.net/blog/2016/02/post_2561.html

あなたには振り返りをサポートしてくれるリフレクションパートナーがいますか?
http://blog.livedoor.jp/mitsuhiro_saito_lab/archives/1052499174.html

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