先日自分が主催しているUnlaboratory(アンラボラトリー)というコミュニティのイベントで、「研究発表するをするときの心得」について10分程度の軽いプレゼンテーションを行いました。

ここで研究発表とは、「学会発表」や大学院での「中間発表」などのことを指しています。

そのときのスライドをWebに公開したところ、twitterやFacebook等で色々な方に見ていただけたようなので、あらためてブログに文章として書いておきたいと思います。

とても基本的な内容ですが、チェックリストのようになればと思います。項目は以下の通りです。

  1. プレゼンテーションの基本ポイント
  2. プレゼンテーションをどのように構成するか?
  3. 研究できるのは一つだけ
  4. 不十分なのは当たり前
  5. あなたの行動が伝わるように
  6. 質疑応答の対策
  7. 何度も何度も練習するべし

1.プレゼンテーションの基本ポイント

まず以下の4つをチェックしましょう。

・時間(ちゃんと制限時間内に終わりますか?)
・話すスピード(話すスピードははやすぎないですか?)
・文字の大きさ(文字が小さすぎたりしませんか?)
・視線・ジェスチャー(しっかり前を向いてプレゼンしていますか?)

とても基本的なことですが、この4つのポイントが守れているかどうかで、プレゼンテーションの印象は全然違います。

また、研究発表の場合は「スティーブ・ジョブズ」のような大きな絵とキーワードだけのプレゼンテーションは、研究発表にはあまり向かないような気がします。ある程度オーソドックスなスタイルでのぞむのがよいのではないでしょうか。
(もちろん、好き好きはあるでしょうが)

2.プレゼンテーションをどのように構成するか?

一番大事なことは、

「あなたがやったこと・やりたいこと」つまり一番オリジナルな部分に時間をかけること

だと思います。

よくある失敗例としては、先行研究など、自分がやったこと以外について多く時間をかけすぎてしまい、自分がやった部分の説明に関する時間がとても少なくなってしまう場合があります。

先行研究についてしっかり説明し、自分がやったところが駆け足で説明というのでは本末転倒ですよね。
自分がやった部分について、しっかり説明できるように時間を確保しましょう。

もちろん、先行研究をしっかり述べて、自分の研究を位置づけることは非常に大事なことです。
しかし、それは「あなたのオリジナルな部分」を引き立てるために使うものです。

その部分を中心に据えた上で、

・なぜそれをやる必要があるのか?(社会背景)
・似た研究は何をしているのか?(類似した先行研究)
・違いはなにか?なぜそれなのか?(新規性)
・どうやるのか?(研究の具体性・方法論・妥当性)

などを述べていくとよいのではないかと思います。

できればプレゼンテーションの冒頭に1分程度で概要を話しておくと「この人がなにをしたいのか?」がわかった上で、先行研究部分を聞けるのでいいかなと思います。

何をするのかわからないまま社会背景や先行研究の話を聞いていると、「どこに連れて行かれるのかな」というかんじになるので、ポイントを絞って話を聞きづらいというのがあると思います。

3.研究できるのは一つだけ

これは特に、まだ研究が絞られていない段階で、大学院の修士課程の中間発表などをする場合についてですね。中間発表はたいてい1年経ったくらいで実施されます。

1年間色々な研究を読んだり、現場にいったりして、知識が増えた分、自分の扱う問題が複雑であることをあらためてわかるという人も多いでしょう。

特に私たちのような文系の領域では、ある問題を取り扱う場合に、個人の要因、組織の要因などなど、非常に複雑に問題が絡み合っているため、なかなかひとつに絞るのは難しいと感じる人も多いと思います。

しかし、研究としてかたちをするためには、問題を1つに焦点化する必要があります。

中間発表などの段階では1つに絞りきれていないかもしれませんが、「こういうところに絞りたいのだ」という、焦点を当てたい部分を明確に発表することが大事かなと思います。

それがわかっていれば聞いている方もアドバイスもしやすいです。「あれも、これも」と言われてしまうと、アドバイスもしにくいです。

「まだわからないけど、なんとなくこの方向でいきたい」というかんじであれば、絞り切れていなくても、こっちで絞りたいのねという気持ちが伝わるため、建設的なアドバイスもしやすいのかなと思います。

4.不十分なのは当たり前

プレゼンテーションを作るときに憂うつなことの1つは「ああ、不十分なところがあって形にしたくないなあ」という気持ちですね。僕もいつも憂うつになります。

しかしあるときに僕は「どんなによい研究でも問題がゼロではないだろう」と思うようになりました。

・もっと事例があったら
・もっとこういう分析をしたら
・もっとこういう領域との関連を述べれば

こういうことは、どんなに素晴らしい論文でもあるのではないかなと。つまり、よい研究とは、不完全なところがありながらも、その中でベストを尽くしたものなのではないかと思ったんですね。

だから問題がゼロということはありえないのかなと。

じゃあ開き直ればいいのかというとそうではなくて、大事なことは「自分の研究の不十分なところを、自分自身で明確に理解しておくこと」なのかなと思います。

プレゼンテーションの関連していえば「今後の課題」とか「本研究の限界」ともいえる部分かなと思います。この部分はなんとなく「つけたし」のように書いてしまうこともあるかもしれませんが、ここをしっかり作っておくと、プレゼンテーションの印象が全然違うのではないかと思います。

不十分なのは当たり前。しかし、その限界を自分は理解しているということがとても重要な姿勢なのかなと思います。

5.あなたの行動が伝わるように

これも特に中間発表みたいなケースになりますが、「あなたの行動が見える」ということはとても大事なことだと思います。

・どこで
・だれに
・なにをして
・どういうデータをとり
・どういう分析をして
・どういう結果を出したいのか

なんとなく「先行研究ではこう言われている」ということが羅列されていたりすると、発表者が何をしたいのか見えてこないときがあります。そうするととてもアドバイスがしにくいです。

「発表者の行動が見える」ようなプレゼンテーションの場合は、具体的なアドバイスもしやすいように思います。

6.質疑応答の対策

ここまでがプレゼンテーションの発表部分のポイントですね。
ここからは質疑応答の対策です。

質疑応答の対策としては、まず質問は簡単でいいので「メモする」のがベターかなと思います。
「質問が3つあります」とか言われると、たいていどれかを忘れます(笑)
文章にして書くのは無理なので、簡単にささっとなんの件についてかメモしておきましょう。

ちなみに、質問された内容は、今後研究をする上でも大事なポイントが指摘されていることが多いです。僕は発表が終わったらすぐに、「だれに」「どんな内容の質問をもらったか」を、テキストエディタや、当日のスライドの最後などに打ち込んで保存しておきます。

質問に答えるときについては、とにかく「短く答えること」が大事です。
「はい or いいえ。なぜなら・・・」というかんじがよいと思います。
だらだら話さない。だまらない。というのが大事ですね。

これは慣れもあると思います。わかっていても長くなるのが普通かなと。
僕も何回も失敗をして、最近は少しずつできるようになってきたかなと思います。
リハーサルをやるだけでだいぶ改善されると思うので、ぜひやってみてください。

質問の意図がわからない場合は、「聞き直す」もしくは「私はこういう意図だと解釈したのですが」といってから答えることも大事かと思います。

質問の意図がわからないということはけっこうよくあります。テンパっていると違うことを答えてしまうこともあるので、あせらず確認をして、端的に答えられるとよいと思います。

質疑応答用に、補足スライドをプレゼンテーションの最後のほうにしこんでおくのもありだと思います。時間の関係で見せられなかったデータや、細かい分析の手順などがそれにあたるでしょうか。

「補足資料として最後にいれとけばいいや」と思うと、プレゼンテーションを削るときに気持ち的にラクにできたりしますので、その点でもおすすめです(笑)

どうしても「削るのが怖い」と思うと、プレゼンテーションのボリュームが増えてしまい、時間内に終わらなかったり、とても早口でプレゼンテーションをすることになってしまいます。

7.何度も何度も練習するべし!

ある程度スライドができたら何度も何度も練習するのが大事です。
練習すればするだけプレゼンテーションは上手になります。

僕がこう考えるようになったきっかけは、学部時代の指導教員である鈴木宏昭先生の影響が強いです。

鈴木先生は非常にプレゼンテーションが上手なのですが、「プレゼンテーションは練習するのが大事だ。自分も何度も何度も練習する」という話が非常に印象的だったんですね。あれは学部1年生のときの授業でした。

「プレゼンテーションは才能だけではなく、練習によって上手さが全然かわるのだ」ということがとても印象に残り、それ以来、プレゼンテーションのときには何度も何度も練習するようになりました。

実際、練習すればするほど上手になります。そして、何度も練習すれば、必ず時間内にプレゼンテーションが終わります。このスライドのところで何分とか、簡単にメモしておくのは効果的です。

一番いいのは「スライドがなくても話せるようになること」を意識することです。

僕は「車」や「お風呂」で必ず練習します。この二つは絶好の練習場所です。なにも見ずにブツブツと話してみます。これで話せるようになれば、ほとんどプレゼンテーションで失敗することはありません。

ちなみにプレゼンテーションの練習をするときに「はじめて研究を聞く人」に聞いてもらうのも効果的です。自分一人でやっていると、どこからどこまで説明していいのかよくわからなくなるんですね。

どうでもいいところを長く説明してしまったり、もっと説明しなくてはいけないことを飛ばしてしまったり。

そういうことを防ぐためには、あまり自分の研究を知らない人に対して練習するのは効果的です。

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以上、研究発表のポイントについて書いてきました。

研究発表はいつになっても緊張しますし、失敗したらどうしようと思うんですが、練習をしたり、場数を踏むことで着実に上手になるものだと思います。

今回は自分自身の研究発表のやり方を振りかえる意味でもあらためてまとめてみました。
なにかの役に足ればうれしいです。

■関連情報
・公開したスライド
・Unlaboratory(アンラボラトリー)のFacebookページ
・宮野さんのこの本は大事なポイントがまとめられていてよいと思います