MON_5047.jpg
 ここ2回ほどワークショップ・デザインついて書いてきました。これまでは「ワークショップがはじまる前」について焦点を当ててきましたが、今回は「当日のデザイン」に関連することについて書きたいと思います。

 今回のポイントをヒトコトでいえば「デザインの目的を意識すること」です。ワークショップ・デザインに関する相談を受けているときによくこんな質問を受けます。
「参加者の交流を促したいのですが、どんな方法がいいですかね?」

 これはよくある問いなんじゃないでしょうか。別にこの問い自体が悪いわけではありません。こういう「ニーズ」はたしかにあるはずです。しかし、その方法を決めるためには、もう少し情報が必要です。例えば、「交流を促したい」といっても色々な方向性があります。仮に100人くらいが参加するイベントを想定してみましょう。
・100人くらいいる参加者がなるべく多くの人と接点・を持ってほしい
・少ない人数でもいいから、企画側が話してもらいたいトピックについて情報交換・してもらいたい
・だれと話せばいいというわけではなく、所属を超えた人と出会ってほしい
 ざっと考えただけでもこれだけ目的があると思うのですね。このように「交流を促したい」と思ったときに、なんらかの活動のデザインを行うわけですが、そのときに「何を意図しているのか」によってその方向性が決まってくるわけです。
 これはある意味でいえば「学びの風景」を描くことでもあると思うんですよね。参加者の人たちがどんなかんじで動いてほしいかということを想像するということになります。その想像や意図みたいなものと「ワークショップ・デザイン」をうまく対応させて考える必要があると思うんですね。

 それがともすると「交流会のときにはこういう方法がある」みたいなかたちで「方法だけ持ってきて適用する」ということにハマってしまうことがあるのではないかなと思うわけです。また、そういう場合に起こるのが「意図」と「方法」のズレだと思うんですね。具体的な例を想像してみましょう。
 「たくさんの人と話してほしいはず」(意図)だったのに、「一人の人と話すのに時間のかかるワーク」(方法)をこちらで設定してしまうと、こちらの意図はうまく伝わりませんし、参加者も混乱してしまいます。
 こうした状況にあせって、「なるべく多くの人と話してくださいね!」とマイクを使って参加者の人たちに言ったところで、「でも、これ時間かかるし・・・」ということになり、まじめにワークをしてくれる人はフラストレーションがたまり、たくさんの人と話すことを優先する人にとってはワークを放棄してしまうという状況が起こってしまいます。

 ワークショップ・デザインにおいて「方法から考えること」自体が悪いわけではないんですね。「こういう方法やったら楽しいかも!」というところから考えることはけっこうよくあります。
 ポイントは「目的・意図」と「方法」の対応を常に意識することです。「この方法が好きだからこの方法を使いたい。この方法だとこんなふうに人が動くはずだから、このタイミングで、こういう道具とともに実施したら面白いだろうな」という思考が重要になると思います。
 どんな方法にも長所と短所があります。例えば「たくさんの人と交流しやすい方法は、ひとりの人とじっくり話すことには向いていない方法」である可能性があります。すでに確立された方法をマネしてみるということは、なにかを上達する上で非常に重要なことなのですが、そのときには常に、その方法が持っている「特徴・意図」みたいなものを意識してみることが重要になるのではないでしょうか。
 ワークショップ・デザインはあくまで方法だと思います。その方法を上手に使うためにも、「デザインの意図」や「参加者がこういうふうに動くのではないか」という「学びの風景のイメージ」を持つことが大事になってくるのではないでしょうか。
■関連する記事
ワークショップ・デザインは「イベント当日」だけではない:参加前の活動デザイン
https://www.tate-lab.net/mt/2012/12/post-266.html
ワークショップ・デザインにおいて「広報」は「付け足し」か?
https://www.tate-lab.net/mt/2012/12/post-267.html
学びの風景をイメージできるか?:空間デザインの基礎体験ワーク
https://www.tate-lab.net/mt/2012/11/post-259.html
■関連する本
私が関わった場作りに関連する本はこちらです。

ワークショップと学び2 場づくりとしてのまなび
東京大学出版会
売り上げランキング: 90646