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先日「ワークショップを支える空間デザイン」というイベントに参加してきました。このイベントは、東京大学大学院山内研究室でワークショップについて研究している安斎勇樹君が主催するBa Design Labが企画したものです。ゲストは牧村真帆さんでした。
安斎君も牧村さんもワークショップ部という名前でこれまで本当にたくさんのイベントをやってきたのですが、意外に牧村さんから空間の話をまとまって聞いたことがなかったので今回のような機会は新鮮でした(笑)
僕は今回のイベントは、スタッフ枠で参加だったんですが、ある日突然安斎君から
「舘野さんはスタッフリーダーってことになってます。あと、プログラムの最後のコメンテーターに入っているのでよろしくお願いします!」
と聞かされ、しかも事前打ち合わせなしの本番勝負だったので、ドキドキしながらのぞみました(笑)
当日の詳細な様子については安斎君がブログに公開するでしょうから、僕は空間デザインについて考えたことを書きたいと思います。
ちなみに写真は、僕が仕掛けたちょっとした空間に対する仕掛けです(笑)
空間全体も色々な工夫をしたのですが、その写真は安斎君のブログを楽しみにしていてください。文末にtogetterのリンクを貼りましたが少しそこでイメージがわかるかなと思います。
空間デザインを考えるワーク
今回のプログラムでは、牧村さんの事例報告、福武ホールの見学などをした後に、実際に空間デザインをしてみるというワークがありました。
6つのグループがそれぞれ以下のようなテーマについてアイデアをだすものでした。(課題が4つだったので、同じテーマをやるグループが2つありました)
  • アイデアがたくさん生み出される空間
  • 深い内省を促す空間
  • 楽しくてモチベーションに上がる空間
  • 人とたくさんつながれる空間
これを実現する空間デザインについて、各グループが議論をし、発表をしました。僕はグループの発表について、牧村さん、安斎君と共にコメントをしました。
各グループの発表はどれもユニークで非常に面白いものでした。
  • 多様なアイデアを知ることができるように、大きなポスターを壁に貼って議論できるようにする
  • かまくらのような場所でひとりでこもって考えられる場所をつくる
など面白いものがいくつもでてきました。
これらの発表を聞く中で、空間デザインのポイントについて以下のようにまとめてみました。
1.発散を促すのか、収束を促すのか
空間デザインの例として色々案はでてきましたが、少し抽象的に見てみれば、これらの案は思考の「発散」を促すのか、「収束」を促すのかのどちらかに分かれるように思いました。
具体的にいえば、
発散を促す方法:多様なアイデアを「見られる」とか「アクセスしやすく」するようにする
収束を促す方法:他のアイデアを「見られない」とか「制限」するようにする
という具合にまとめられると思います。
「見られるようにするか」「見られないようにするか」ということですね。
最近の傾向としては「発散」の方が注目されやすいのかなと思います。他人に行動を見られるようにするとか、多様なリソースにアクセスできるようにするというのがポイントになってきますよね。最近、空間でも壁がガラス(部屋の中が見られる)などが増えてきました。その反動ともいえるかもしれませんが「ひとりでこもれる場」を空間的な特徴として盛り込む人が多かったように思いました。
2.近くで見るのか、遠くで見るのか(思考のズーム調整)
もう一つ空間デザインのポイントとして出てきていたのは、物事を近くでみるのか、俯瞰して見るのかということをデザインするようなかたちでした。
特に「あえて俯瞰して見る場を作る」というアイデアが多かったように思います。例えば、「少し遠くから自分の活動を眺める」というかんじですね。
ものに昇ってみるとか、視線の角度と距離のデザインといえると思います。
これは僕としては「思考のズーム調整」みたいなもので、それを空間で促すということなのかなと思いました。物事の見方を、空間を使うことで調整させるということですね。これも空間を使ってやりやすい一つのデザインなのかなと思いました。
3.パブリックか、プライベートか
最後のポイントは、パブリックな空間を作るのか、プライベートな空間を作るのかという点です。上記の2つとも関連しますね。
「人とつなげるような空間デザイン」はどちらかというと「見られるようにすること」「パブリックであること」をどうデザインするかが求められます。
一方で「ひとりで内省する」という意味では「プライベートであること」をどうデザインするかが求められます。これは人から「見えないようにする」というかんじですね。空間デザインは、この2つのスイッチの切り替えをする上で非常に重要なのだろうなと思いました。
両義性を含んだ空間をデザインすること
これらの点を踏まえると、ワークショップにおける空間デザインは、「両義性を含んだ空間を作ること」ともいえると思います。「アンビバレントな空間作り」ともいえるかもしれませんね。
具体的にいえば
  • 多様なリソースにアクセスできたり、制限できたりする
  • 近くで見たり、遠くから見たりできる
  • ひとりになったり、つながったりすることができる
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という、相反するものをどちらも許容できるデザインであることなのかなと。
これはワークショップの空間デザインとしてよくいわれる「すみっこ」と「はらっぱ」の話に共通するのかなと思います。
中原(1999)では、苅宿俊文先生の実践を分析した際に、一人で作業に没頭できる場所(すみっこ)と、みんなが集まることのできる場所(はらっぱ)の両方が用意されていたことを指摘しています。
すでに指摘されているといってしまえばそれまでなのですが、あらためてこうした「両義性を含んだ空間を作ること」の重要性に気づきました。
相反するものをシンプルに実現する空間デザイン
そしてワークショップにおいて重要なのは、こうした「両義性を含んだ空間」をいかに上手に、シームレスにつくれるかということですね。
  • 多様なリソースにアクセスできたり、制限できたりする
  • 近くで見たり、遠くから見たりできる
  • ひとりになったり、つながったりすることができる
というのは、それぞれ別々のものですから、それを実現する空間をつくることは大変です。
「一人になりたいときはうまく一人になれるけど、つながりたいときはつながれる」
といった、両方の活動を、すんなり流れるように、シンプルに実装する技は、まだまだこれから開発されていくものなのではないかと思います。
両義性が必要だからといって、全部の要素をひとつにほうりこめばいいというわけではないわけで、それをどのように融合させるのかという技が重要になるのかなと思います。
まとめ
ということで、今回は空間のデザインについて考えてきました。空間デザインについて考えていくと、「空間だけ」として切り取って考えることがなかなか難しいことだとあらためて思いました。活動や、何を使うのかという人工物のデザインとも切り離して考えにくいからですね。
実際にデザインするときにはそれらを全て総動員してデザインするのですが、特に「空間」を切り取って話をする場合には、「何を空間と捉えるのか」「その空間単体で促しているものはなんのか」ということをうまく考える必要があるなと思いました。
実は人によって、そもそも「空間」の定義がさまざまであるように思ったのも今回の感想でした。
まだまだまとまってはいませんし、他にも色々な要素はあると思うのですが、空間デザインについてあらためて考える非常によい機会になりました。
企画の安斎勇樹君、ゲストの牧村真帆さん、参加してくださったみなさん、スタッフのみなさん、今回は本当にありがとうございました。
■関連リンク
安斎勇樹君による実践報告
Ba Design Lab「ワークショップを支える空間デザイン」実践報告
牧村真帆さんのtwitter
語りを誘発する学習環境のエスノグラフィー(中原 1999)
BaDesignLab「ワークショップを支える空間デザイン」 – Togetter
ワークショップ部
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