8/26(木)に行われた、日本認知科学学会の「対話と学習研究会」に参加してきました。テーマはずばり「問題発見としてのレポートライティング」です。

詳しくはこちら。
http://www.jaist.ac.jp/~j-morita/SIGLAL44.html

私の研究に直結する内容でしたし、発表者の先生方がそれぞれとても魅力的でしたので非常に楽しみにしていました。
各発表者の内容について簡単に内容を紹介し、少しずつコメントできればと思います。

「レポートライティングの問題設定における直感と感情」
鈴木宏昭(青山学院大学)

【鈴木先生の書いた本】

【発表の概要】

鈴木宏昭先生は私の大学時代の指導教員なので、発表内容についてはとてもなじみがあります。鈴木先生のやられている研究のポイントはヒトコトでいうならば、レポートライティングにおいて「直感と感情を重視する」ということです。

レポートライティングというと、どうしても「論理的に」だとか「感想を書くんじゃない」だとか、口酸っぱく言われます。直感や感情とは少し離れた世界というか、むしろそういうものは「使うな」と言われる傾向があるのではないでしょうか。

しかし、そうではないということを先生は主張します。研究者であっても、先行研究を読むときに完全に「感情を排除して」読むわけではありません。特に「レポートで書くべき問題を発見する」ということを考えるのであれば、直感や感情をうまく使うことが大事ではないかというわけです。実際に戸田山和久先生の本や、斉藤孝さんの本の中でも、直感や感情をうまく使う方法は紹介されています。

これらを踏まえて、鈴木先生は「直感や感情」をうまく利用して文献を読むことのできるシステムを開発し、実際にどういうことが起こるのかを検証したというお話をされました。

【コメント】

この話は以前から聞いていた話なので、あらためて再確認したというかんじです。学部時代によく先生と、レポートライティングをする上で「Rationalな思考」と「Emotionalな思考」をうまく相互作用できるような仕掛けが大事ではないかという話をしていたのですが、そのときに考えていたことや気持ちを思い出すことができました。

「Emotional-Rational」の相互作用というのは、考えてみればブルーナーの言っているような、思考の様式には「論理・実証モード」と「ストーリーモード(Narative Mode)」という2つがある、という話ととても似ているかもしれませんね。

これまでレポートライティングといえば、「論理・実証モード」の方が重視されてきた気がしますが、うまく「ストーリーモード」の思考との相互作用を考えられないかということは、僕の中でもとても気になるテーマです。

「大学初年次教育の中のレポートライティング指導の実践例」
向後千春(早稲田大学)

【向後先生の書いた本】

自己表現力の教室
自己表現力の教室

posted with amazlet at 10.08.27
荒木 晶子 筒井 洋一 向後 千春
情報センター出版局
売り上げランキング: 95896
おすすめ度の平均: 4.5

4 平和を作るために自己表現全般へ通じる基本行為を学べる本
5 大学生、社会人におすすめ

【発表の概要】

向後先生については、僕は「書くこと」に関する本などをたくさん読ませていただいてたのですが、直接「書くことに関するプレゼン」を聞くことが初めてだったのでとても楽しみでした!

向後先生の発表では、実際に大学初年次教育の中でどのような指導を行っているかということを紹介されました。

詳しくは向後先生のblogに発表内容がアップされています!

KogoLab Research & Review 日本認知科学会の学習と対話研究分科会
http://d.hatena.ne.jp/kogo/20100826/p1

向後先生の指導でのポイントは「型をきっちりトレーニングしよう!」ということかなと思いました。今回紹介された内容をblogから引用させていただくと下記の3点なのですが、どれもきちんとトレーニングのかたちに落とし込まれています。

   1.  Toulminの三角ロジックで,主張の方法の訓練
   2. 序論・本論・結論の5段落構成で1000字レポートの訓練
   3. ピアレビューを,表現レベル,ロジックレベル,メタレベルで実施

【コメント】

向後先生の発表はレポートライティングにおける「型の習得」ということをしっかりとトレーニングの形として落とし込まれており、実践としての完成度がとても高いなと思いました。

学生は授業を通してこれらをみっちりとトレーニングできるということで、参加者としてはもしかしたら満足度は高いのではないかなと思いました。レポートライティングというのはやはり「何をしていいのか?」というのが学生にとって見えにくい部分もあると思うので、具体的にトレーニングの方向性が示されているのは助かるのかなと。

気になった点といえば、「ロジック」や「型」ということを意識するばかりに、書くことにして「臆病にならないかな」ということでした。自分もそういうところがあったのですが、論理的に書こうと思うと、どうしても大きなことが言えなくなってきます。すると、どうも縮こまってしまうというか、当たり障りの無いことを書こうと思ってしまったりするんですよね。そのあたりのマインドセットというか、そういうところはどうなのかなということを知りたいなと思いました。

「方法論論(ほうほうろんろん)あるいはmethodologylogy」
戸田山和久(名古屋大学)

【戸田山先生の書いた本】

論文の教室―レポートから卒論まで (NHKブックス)
戸田山 和久
日本放送出版協会
売り上げランキング: 2136
おすすめ度の平均: 4.5

5 学生が見えているんだなぁ
2 不要な要素を多分に含む。
4 これはマックファンが書いた論文執筆指南書だ!
5 レポートの書き方がわからないという方に
5 論文の書き方を概観するには良い

【発表の概要】

戸田山先生といえば「論文の教室」ですよね!この本はレポートライティングに関する本の中では、一番といっていいほど好きです。

今回のご発表では「どうやってレポートライティングを教えるか」という具体的な方法論というよりも、哲学的な視点から、大学においてレポートライティングを教えるということはどういうことなのか?ということをお話してくれました。

ライティング教育やFDを「知性改善プロジェクト」と言うことができるとし、これは哲学の中ではデカルトから始まる中核的な課題だったということを述べます。そうした上で、古典的知性改善プロジェクトの特質と課題を指摘し、どのように乗り越えるべきかということを発表されました。

【コメント】

発表の内容を僕がちゃんと理解できたかはあやしいのですが、とても面白く聞くことができました。発表中、さらには質疑応答中に、個人的に響いた言葉を羅列しておくと、

  • ソクラテスに戻れ(具体的であるということ)
  • 一般的な命題知を提示しない(その例の1つ:〇〇すべきではなく、〇〇禁止と表現)
  • 認知「心理学」だけで進んでいけるか?拡張が必要ではないか
  • 民主主義社会において、近代市民育成のためのレポートライティング
  • どんな科学も「大風呂敷を広げる人」と「断片的な実践をする人」という2つから始まった

というかんじです。ちゃんと理解できたという自信がないのに、発表は「なにか面白い!」と感じられるというのがすごいなあと(笑)思わず「科学哲学の冒険」を読み直したくなりました。

「協調的に説明し作文することが一人ひとりの理解を深める過程」
 白水始(中京大学)

【白水先生の書いた本】

学習科学とテクノロジ (放送大学教材)
三宅 なほみ 白水 始
放送大学教育振興会
売り上げランキング: 315724
おすすめ度の平均: 5.0

5 「知る」ことを知らしめようとする著者の意図と多角的なアプローチが面白いレビュアー絶賛の書
5 放送大学を見て泣けてきた
5 学習科学の入門書として

【発表の概要】

最後の発表は白水先生です。白水先生は、三宅なほみ先生と共に多くの研究をなされていますよね。現在私も科研でご一緒させていただいています。

発表内容は、中京大学での実践でした。中京大学の「認知科学の基礎について理解する授業」において、学生がどのようにレポートを書いていくのかを追った実践の発表でした。この報告では、なんと1年生の春から、二年生の春(期末)までの実践を追いかけて、その変化をデータで方向されており、かなり圧巻でした。

実践ではジグソーという方法を使い、学生は「自分だけが知っている情報を知らない人に伝える」ということを繰り返し行なっていきます。

ジグソー・メソッドについてはこちら↓

Beating「ジグソーメソッド」の解説記事
http://beatiii.jp/beating/018.html

【コメント】

白水先生の発表でポイントだなと思ったのは、

  • 内容的知識の重視(「書くことの形式」ではなく、何をかくのかということ)
  • 学生が伝えたいと思うことの重視(書く動機?書く文化をいかにつくるのか)

という2点かなと思います。これは他の発表者の人達の内容にはあまり出てこなかったことだと思います。個人的にこの2つはかなり大事だよなと思い、色々考えが広がりました。

白水先生の実践は、「長期の実践を扱っている」、そしてその中で「学生の変化のプロセスをデータで追っている」という点に圧倒されました。

「書く力は短期で身につけることは非常に難しいものであり、長期で実践をし、分析を行うべきである」

ということは言えるのですが、実際に本当にやるのは激しく大変です。しかし、白水先生の実践は、カリキュラムのデザインからデータの分析までかなりきめ細かに行われているという印象を受けました。

まとめ

全体を通してみて、かなり自分としては多くの気づきのある研究会でした。それぞれの発表者の方々が「レポートライティング」を対象にしつつも、それぞれ大切にしているポイントが異なっており、それがとても面白かったですね。

  • 直感・気づきの活用(鈴木先生)
  • 型の習得(向後先生・戸田山先生)
  • 内容知識の理解、書く文化をつくること(白水先生)

書く力をつけるためにはどれも欠かせない視点だと思います。僕が修論で研究した内容は、向後先生のお話や、型の習得に近い話だったのですが、現在やっている研究はまた少し違ったかたちですすめています。

なかなか一人で研究していると自分がやっていることの意味だとか、他の人との関係性というのが見えなくなってきてしまうのですが、こういう機会があるとそれらを見直す非常によい機会になります。

今回の研究会では、参加者の方々もいろいろな方々がきていたので、顔合わせをしたり、情報交換のよい機会になりました。

こういう機会で自分の研究内容を発表できるように、一層研究をがんばろうと思ったのでした。

また他に気づいたことがあれば、別の記事で書いてみようと思います。

▼文章の書き方やコミュニケーションなどに関する以前書いた記事

[書評]ぎりぎり合格への論文マニュアル(山内志朗)を読んだ!
https://www.tate-lab.net/mt/2010/04/post-172.html

[書評]文章を書くことは、好きな人へのプレゼントをどう決めるかと同じ!?「伝わる・揺さぶる!文章を書く(山田ズーニー)」
https://www.tate-lab.net/mt/2010/04/post-175.html

[書評]話すチカラをつくる本(山田ズーニー)を読んだ!
https://www.tate-lab.net/mt/2010/04/post-174.html

[書評]あなたの話はなぜ「通じない」のか?(山田ズーニー)を読んだ!
https://www.tate-lab.net/mt/2010/04/post-171.html

[書評]元祖 文系のためのレポート書き方本! – レポートの組み立て方(木下是雄)
https://www.tate-lab.net/mt/2010/05/kinoshita.html

論文の教室(戸田山和久)
https://www.tate-lab.net/mt/2008/11/–.html

書くことに関する「学習パターン」
https://www.tate-lab.net/mt/2009/11/post-147.html

[書評]大学生の学び・入門(溝上慎一)
https://www.tate-lab.net/mt/2009/10/post-127.html

僕が中原研で学んだ「先行研究の読み込み」に必要な3つのポイント
https://www.tate-lab.net/mt/2010/04/post-176.html

Fri, Aug 27

  • 03:44  RT @editage_jp_news: 卒論/修論における読みやすい文章を書くための技法(発声練習より)「誤解されにくく、かつ、読みやすく、かつ、おもしろい文書が最高の技術文書」 http://bit.ly/cGjgFc


Powered by twtr2src.

Wed, Aug 25

  • 14:54  いやいや(笑)!やったことあるのは最初のときメモだけでございます。RT @MiUKi_None 舘野さんてそんなゲームとかやる人だったんですね・・・(軽蔑の眼差し)
  • 14:46  @bm 人名です(笑)!コメントの意味がそれで理解できました(笑)  [in reply to bm]
  • 14:46  それです(笑)!RT @negi317 片桐彩子かな RT @tatthiy 時々「リアリー?」とか@hakonyanがいってうざしです。そういえば、そういう「ときめも」のキャラいたな。そのキャラもルー大柴とか言われていた気がするけどw
  • 14:45  @RitaMURAGISHI ありがとうございます!月見逃してしまいましたっ!あとで外覗きます(笑)  [in reply to RitaMURAGISHI]
  • 11:52  さて、つかれたし帰るか。
  • 11:46  時々「リアリー?」とか@hakonyanがいってうざしです。そういえば、そういう「ときめも」のキャラいたな。そのキャラもルー大柴とか言われていた気がするけどw
  • 11:45  我妻がルー大柴化していてうざいです。
  • 10:33  RT @arai_kamakura: すごい!RT @cloudgrabber RT @ikeyu: そして、NHKの教養番組『ハーバード白熱教室』を視聴し、ノートを取り、議論を再検討し、復習課題に取り組んだウェブサイトhttp://deztec.jp/z/dw/j/in …
  • 09:51  RT @clione: 渡辺三枝子先生のキャリアカウンセラー向け講演会開始待ちなう。テーマは「高等教育におけるキャリア支援について」。
  • 09:51  エンゲストローム描いてみたけど、似てなかった…。@YukiAnzaiとミーティングなう。 http://moby.to/fuvvg5
  • 08:42  超訳 ニーチェの言葉は、Amazonのカスタマーレビューの評価がまっぷたつにわれているなw
  • 08:40  「疲れたらたっぷり眠れ」とニーチェが言っていると思うと、なんか親近感がわく(笑)by ‘超訳 ニーチェの言葉’ Amazon でチェック! http://amzn.to/9tAcxp
  • 08:18  RT @Empublic: エンパブのメルマガの広石コラム「社会的企業のデザインと、人と人の距離」をGLIサイトに転載いただきました。  http://www.glijapan.eu/news/?p=1037
  • 08:17  @yohei917 @YukiAnzai なんやて(笑)!いずれせによ、おごるほどの収益でねーw  [in reply to yohei917]
  • 06:57  いつも緊張していたりプレッシャーがあるのはいやだけど、日常に慣れきってしまうのもよくないな。適度な緊張感とドキドキを大事にしたいわけだが、そのバランスが難しいもんだ。
  • 06:29  読むたびに発見あり→ユーリア エンゲストローム, Yrj¨o Engest… の ‘拡張による学習―活動理論からのアプローチ’ を Amazon でチェック! http://amzn.to/a0GbGS
  • 06:03  RT @wackywakky: RT @kenichiromogi: 教育の内容を事細かに決めて、箸の上げ下ろしまでごちゃごちゃ言う、日本の教科書検定や指導要領って、何だったのだろう、とシンガポールで改めて思う。恐竜時代の習慣? でも、まだ続いているんだよね。これじゃあ、 …
  • 06:02  RT @wackywakky: RT @kenichiromogi: シンガポールの国会議員のPenny Lowとの議論。「教科書」は、事実を載せるのではなく、質問を列挙したり、アクティヴィティの起点になっている。先生は、徐々に、ファシリテーターのような存在になりつつある …
  • 05:59  恋する瞬間『キュン』の正体(エキニュー恋愛総研) – エキサイトニュース http://bit.ly/duIPWt
  • 04:53  【文章術】『【決定版】成川式 文章の書き方 』に学ぶ文章術の7つのポイント:マインドマップ的読書感想文 http://bit.ly/9emt2Z
  • 04:51  読みやすい文章を書くための技法 – RyoAnna’s iPhone Blog http://bit.ly/b3Ysyu
  • 04:51  YouTube – 増井俊之氏 講演 第1回インタラクションデザイン研究会 01 http://bit.ly/aIIZS1
  • 04:51  楽天の社内では「重要なので日本語で失礼します」が流行語? http://bit.ly/aCv5ib
  • 04:50  Amazon1位に!「視聴率よりDVD販売」に舵を切った深夜ドラマ『モテキ』の戦略 – 日刊サイゾー http://bit.ly/cRiocL
  • 04:50  ユーザーの9割以上が「旅の思い出」をソーシャルメディア上にアップ | ネット | マイコミジャーナル http://bit.ly/92TnLV


Powered by twtr2src.